今回のコラムでは覚王山店の三浦が担当させていただきます。

テーマは『手を当てること』『タッチング』について。

私の看護師人生⚫️十年の中で実感している事が『触れること』『触れられること』の力です。
よく『聴覚は最後まで残る』と言われており、この言葉はご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
すでに食べることもできず目を開けたり話す気力も無くなった方であっても、耳元で家族や親しい人が話しかけると、弱々しくではありますが手を握り返して反応を示す場面をたびたび見てきました。
それと同じように家族や親しい人が患者さんに触れるとホッとした表情になる場面も何度も見てきました。
では私個人の実体験だけでなく、医学的・科学的視点での皮膚とタッチングについて考えてみたいと思います。

【皮膚と脳は繋がっている? 〜解剖学から考える〜 】

皮膚は『第3の脳』とも言われており、脳と皮膚の繫がりを読み解く中から生まれたキーワードです。
実は受精卵が細胞分裂する際に脳と皮膚は同じルーツから生まれ、よく似た仕組みを持っていることから『第3の脳』『皮脳同根(ひのうどうこん)』と言われています。
受精卵は細胞分裂を繰り返しながら成⻑し、3週目に入ると胚葉(はいよう)と呼ばれるものができますが、これは外胚葉・中胚葉・内胚葉と呼ばれる3層の細胞層からなっています。人間の皮膚は「外胚葉」から派生したものであり、脳もまた「外胚葉」から派生したものであることから皮膚と脳はルーツが同じなのです。

ストレスが溜まるといつもより肌荒れひどくなるという経験はありませんか?
これはただの肌荒れではなく、心から出される危険信号ともいえるのです。

心地よい刺激が肌に触れると不安やストレスを和らげるリラックスした気分にさせるホルモンが出ます。
オキシトシンというホルモンなのですが、このオキシトシンは血圧や心拍を下げる・免疫力を強める・痛みを和らげるといった身体への効果の他に、触れる人との愛情を深める・信頼感を高める・親密な関係を築くと言った心への効果もあります。

毎日の生活を顧みるとお風呂に浸かった瞬間に「あ〜気持ち良いなあ」と感じたり、お腹が痛い時に手でお腹をさすってもらうと「痛みが和らいだなあ」と感じたりするのは、実は身体の表面の皮膚がキャッチした感覚であり感情であることが分かります。
人間の皮膚にはアドレナリンなどの脳内物質を感じとる受容体があるため、様々な感情を作り出す役割も担っているのです。

【皮膚の特徴 〜バリアとセンサー〜 】

皮膚の役割は生命を維持するための「防御機能」と環境の変化を感知する「感覚機能」です。「防御機能」は異物や細菌などが体内へ侵入したり紫外線などの刺激の影響を受けないためや、体内の水分や体液が外へ漏れ出さないための鎧として大切な役割です。

私たち人間が地上で生きていくためには身体の外の環境の変化や影響が体内に及ばないようにしておく必要があります。


「感覚機能」は周囲に起こった現象を知らせる機能で、外界の情報を察知するセンサーの役割を果たしています。

皮膚には 温かい・痛い といった刺激をキャッチする神経が備わっていることは広く知られていますが、これらの「五感」に加えて「心地よさ」「気持ちの悪さ」「怖さ」などの感覚も実は肌で感じているのです。

例えば「温泉に入ると気持ちが良い」や「生きた鰻を触ってみたら気持ち悪かった」という感覚は「皮膚が感じた感情」と言えます。

こうして考えると「鳥肌が立つ」「身の毛がよだつ」「温かい人、冷たい人」「肌が合う、肌が合わない」など、皮膚感覚で感じた取った現象を表わした日本語が意外に多いことに気が付きます。
皮膚は目には見えない情報を受け取る感覚に優れており、感情のアンテナのような役割を果たしているのかもしれません。

【タッチングの効果とは 〜ケアの原点〜 】

私たちがこの世の中で健康的に生きていくことができるのは、身体の感覚があるからです。
信頼できる人から触れられるということは自分の身体の存在に気付き、自分の身体の感覚を取り戻すことができます。
それは同じ時・同じ場所にいるもの同士しか触れ合う事ができない非言語的コミュケーションだからです。
【今、ここ】で【共に在る】ことを実感すると、人は「1人じゃないんだ」「ここに居ても良いんだ」ということを、言葉ではなく感覚として認識することができます。

これが『手当て・タッチング』の効果です。

触れる・触れられるということについては2012年と少し古いですが心療内科の分野で『家族が患者の手を握る行為の有用性』という論文も発表されていますし、看護の分野においてもタッチングについての研究論文は、ほぼ毎年のように発表されています。

【家族だからこそできるケア】

私たちは、よくご家族様から「何もしてあげられることがない」と相談を受けますが、ご家族様や親しい方が手を握ること、身体をさすることは誰にも代わることができない素晴らしい『手当て』では無いでしょうか。
コロナ禍において人との接触が少なくなっている今、身近な人とだけでも触れ合いを大切にしていきたいですね。

【赤ちゃんからお年寄りまで】

『触れる』ということをテーマにした詩をご紹介させていただきます。


わたしにふれてください〜Please touch me〜
作:フィリス・K・デイヴィス  訳:三砂ちずる

もしわたしが あなたの赤ちゃんなら
どうぞ、わたしにふれてください
今までわたしが、知らなかったやさしさを
あなたから もらいたい
おふろにいれてください、おむつをかえてください
おっぱいをください
ぎゅっと だきしめてください、ほほにキスしてください
わたしのからだを あたためてくれる快楽が
わたしに安心と愛を つたえてくれるのです

もしわたしが あなたのこどもなら
どうぞ、わたしにふれてください
いやがるかもしれないし、拒否するかもしれないけれど
何度もそうしてください
わたしがどうしていやがるかをわかってほしいから
おやすみなさい、と抱きしめるあなたの腕が
わたしの夜を甘くしてくれる
昼間にみせてくれるあなたのやさしさが
あなたの感じる真実を伝えてくれる

もしわたしがあなたの思春期のこどもなら
どうぞ、わたしにふれてください
もう大きくなったのだから なんていわないでください
あなたがわたしにふれるのをためらうなんて思いたくない
あなたのやさしい腕が必要です
あなたのおだやかな声をききたいのです
人生は困難なのかもしれないと わかったいま
わたしの中の小さな子どもがあなたを必要とするのです

もしわたしがあなたの友達なら
どうぞ、わたしにふれてください
あなたがだきしめてくれると
わたしはあなたにとって大切な人だとわかるから
あなたのやさしさが
おちこんでいるわたしも、かけがえのない存在であることを
思い出させてくれるから
そしてひとりではない、と思い出させてくれるから
わたしにやすらぎをくれるあなたのありよう
それだけがわたしが信じられるもの

もしわたしがあなたの愛の相手なら
どうぞ、わたしにふれてください
あなたは、情熱さえあれば、十分と思うかもしれない
でも、あなたの腕だけが、わたしの恐れをとかしてくれる
あなたのやさしくおだやかな指先をください
あなたにふれられて
わたしは愛されている ということを思い出すことができる
わたしはわたしなのだ、ということを思い出すことができる

もしわたしがあなたの大きくなった息子なら
どうぞ、わたしにふれてください
わたしには、抱きしめるべきわたしの家族はいるけれど
それでも、傷ついたときには
おかあさんとおとうさんにだきしめてほしい
おとうさん、あなたといるとすべてが違ってみえる
わたしが、大切なわたしであると思い出すことができる

もしわたしがあなたの年老いた父親なら
どうぞ、わたしにふれてください
あなたが小さかったときに
わたしがあなたにふれたと同じように
わたしの手をにぎり、わたしのそばにすわって
わたしを力づけてください
わたしの疲れた体によりそい、あたためてください
わたしは随分しわくちゃになってしまったけれど
あなたのやさしさに力づけられる
どうぞ、何も恐れないで
ただ、わたしにふれてください


著者:三浦 路里(看護師 Footage訪問看護ステーション覚王山店 )